ヘヴンズ・ストーリー

ヘヴンズ・ストーリー(2010/瀬々敬久ユーロスペース11/5
柄本明の泣き顔から涙が確認出来ないのはその前の少女の失禁シーンが素晴らしいだけに残念。
■音楽活動が上手く行かない事を片耳が聞こえない事のせいにする人が出て来るが、作者は当然ブライアン・ウィルソンみたいな人の存在を知った上で造形しているのであろう。
■雪に覆われた廃墟に対象者を訪ねる復讐代行業の村上淳の元に、次々とコンクリート片が降ってくる所は良いのだが、この後も通して面識も無い対象者に向かって村上がのべつ無駄口を叩いているのはどうなのか。人を殺す事によって自らにもたらされる負荷とか、映画内で安易にそれが行われる事への齟齬感をもたらす、とか意味合いはあるのだろうが。
■波止場で引った繰りの対象を待ち続けている少年と、渡し船から降りてくる少女がすぐに誰だか解ってしまうのは、熟練のスタッフによるマジックとしか言い様が無い。
■蝉の抜け殻→踏みつぶす男→別の抜け殻を発見→少女を肩車→少女の失禁の記憶を呼び起こす官能、という展開には痺れた。ここまで映画的な造形はもはや反時代的と言って良い。
■復讐を決意した男が少女と渡し船に乗るシーンの切り方。これだけで説得力があるのは凄い。
忍成修吾の犯す殺人から、欲望の在処が漂白されているのは納得が行かない。この後の展開を抽象的に見せる事への貢献はしているのであろうが。
■電話による復讐者同士の交感。
■エピローグが理解出来ない。死後の存在が思わずたじろぐ程堂々とカメラの前に立っているが、こうした演出は登場人物をおもちゃ扱いしている様に見えてしまう。