夫婦善哉

夫婦善哉(1955/豊田四郎神保町シアター4/7
森繁演じる化粧品問屋の放蕩息子が、実家の敷居を跨げなかったり、駆け落ちした淡島千景の待つ家に朝帰りしたり、室内/室外の境界で芝居を作って行く所が目立ち、そのバリエーションの多彩さに感心する。
やはり淡島の実家の天麩羅屋の軒先で彼女を迎える父親役の田村楽太の芝居の、沈み込むようなペーソスが深く印象に残る。私は落語家か演芸系の人かなと思ったのだが、舞台中心に活躍した喜劇役者で、映画にはあまり出ていないらしい。

ゴダール・ソシアリズム

ゴダール・ソシアリズム(2010/ジャン・リュック・ゴダール日比谷シャンテ・シネ12/20
パティ・スミスに似た人が出てると思ったら本人だった。にしてもあの出し方はなんだ?せめてドリス・ミゾグチぐらいは歌わせるのが礼儀だろう。黒人の女の子が「エイズは黒人を滅ぼす為の道具」なんて言わされている。確かにHIVはアフリカ発祥って言われてるけどそれで何?言いっ放し。
ゴダールはもう映画を作る為の胆力が無くなっているんだろう。一つのシーンのアクションを展開するのにカットを二つ割るのに精一杯で、後は子分に撮らせたのと出来合いの絵を家のパソコンでタラタラ編集して行くぐらいしか仕様が無いわけだ。荒れた画像を時折挟んでいる手付きがどうにも古臭くてゲンナリ。こんなの高城剛でもやってるって。

ヘヴンズ・ストーリー

ヘヴンズ・ストーリー(2010/瀬々敬久ユーロスペース11/5
柄本明の泣き顔から涙が確認出来ないのはその前の少女の失禁シーンが素晴らしいだけに残念。
■音楽活動が上手く行かない事を片耳が聞こえない事のせいにする人が出て来るが、作者は当然ブライアン・ウィルソンみたいな人の存在を知った上で造形しているのであろう。
■雪に覆われた廃墟に対象者を訪ねる復讐代行業の村上淳の元に、次々とコンクリート片が降ってくる所は良いのだが、この後も通して面識も無い対象者に向かって村上がのべつ無駄口を叩いているのはどうなのか。人を殺す事によって自らにもたらされる負荷とか、映画内で安易にそれが行われる事への齟齬感をもたらす、とか意味合いはあるのだろうが。
■波止場で引った繰りの対象を待ち続けている少年と、渡し船から降りてくる少女がすぐに誰だか解ってしまうのは、熟練のスタッフによるマジックとしか言い様が無い。
■蝉の抜け殻→踏みつぶす男→別の抜け殻を発見→少女を肩車→少女の失禁の記憶を呼び起こす官能、という展開には痺れた。ここまで映画的な造形はもはや反時代的と言って良い。
■復讐を決意した男が少女と渡し船に乗るシーンの切り方。これだけで説得力があるのは凄い。
忍成修吾の犯す殺人から、欲望の在処が漂白されているのは納得が行かない。この後の展開を抽象的に見せる事への貢献はしているのであろうが。
■電話による復讐者同士の交感。
■エピローグが理解出来ない。死後の存在が思わずたじろぐ程堂々とカメラの前に立っているが、こうした演出は登場人物をおもちゃ扱いしている様に見えてしまう。

エッセンシャル・キリング/レディ・ウェポン/レディ・ウェポンZERO/天使行動

shiraishit2010-11-01

エッセンシャル・キリング(2010/イェジー・スコリモフスキー)TOHOシネマズ六本木ヒルズ10/28
20文字ぐらいで説明出来る単純過ぎる物語なので多くは書かない。
若いアメリカ人が撮ったようにしか見えない今風の編集でテンポ良く進んで行くB級アクションのように見えた物が、中世の騎士譚のようなラストに収束して行くルックは余りにも奇妙で、呆気に取られた。

レディ・ウェポン(2002/チン・シウトン)香港DVD
レディ・ウェポンZERO(1993/コーリー・ユン/デヴィッド・ライ)香港DVD
天使行動(1987/テレサ・ウー)香港DVD
マギーQを観たくなったので『レディ・ウェポン』を再見。以前にも増してガッカリ。チン・シウトンのやたらポーズを決めて飛び合ってるだけのヒラヒラ・アクションを現代劇でマトリックス乗りも入れられたりするともう耐えられないのだが、個人差があるのだろうな。ガン・カタ系の映画の予告編とか観るとこんなんばっかだし。
口直しにもう何度も観ている『ZERO』を。『レディ・ウェポン』に便乗する形で紹介され知られるようになった1本だが、ハッキリ言って200倍ぐらい素晴らしいと思う。マギーやアンヤにルックスで負けようがオッパイもケツも出して体技も遥かに上回ってるんだからな。
更に『天使行動』。ムーン・リーと大島由加里の名高いラストバトル。

ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う

ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う(2010/石井隆)銀座シネパトス10/27
竹中直人はグダグダ言ってないで早く佐藤寛子に殺されろよ、と思いながら観ていた。大芝居の間が持たなくてオカルトに行ってしまうが、ならオカルトも絵にした方が良い。結局惜しみ無く奪われてしまうのは佐藤寛子であり、シミジミと心の傷を癒す風情で元・真中瞳のそれも奪うのであろう竹中直人が恐ろしい、という映画。
竹中がせっかく「俺をハメやがった」と憤ったのを簡単に佐藤にハマらせてしまうのが私のノワール魂をヘコませる。まあそこであれこれ丁丁発止してたら佐藤が脱ぎ損になるからな。女優が脱ぐ、という前提があってそれを崇める男を必ず立てるのが石井映画なんだろうが。私は嫌いだが、世界的に紹介されるべき個性だとは思う。
自分を紹介する為に過去を調査させる、という設定は、どうしても『恋人たちの時刻(1987/澤井信一郎)』を思い起こさせるが、さらに原典があるのだろうか?

TNTジャクソン/The Black Godfather

shiraishit2010-10-26

TNTジャクソン(1972/シリオ・サンチャゴ)米AlfaDVD
兄をギャングに殺された黒人のカンフー・レディが復讐の為に香港に乗り込む、と言う考えてみりゃ無理繰りな設定はグラインドハウス的価値観を凝縮した物で、この映画が語り継がれる根拠であるのだろう。
当時プレイメイトだったらしい主役のジーニー・ベルの短駆にデカいアフロヘアのシルエットと、妙にクネクネしたカンフーの構えが笑える。私はかつてのラビット関根を思い出した。
全体的にGメン75みたいな大昔のテレビフィルムを思い出させる出来映えだが、ベルが敵に寝込みを襲われ、部屋の明かりを消し、白いネグリジェを脱ぎ捨てて闇の中黒パン1枚で撃退するシーンは素晴らしい。ナイスアイディア!この時、You wanna black,You got it`s black!と言っていると思うのだが、ここだけ限定的にカッコいい。

The Black Godfather(1974/John Evans)同
上記にカップリング。
強盗に失敗したチンピラがナンバーズ(アングラの宝くじ)の大物に助けられ、彼の傘下で水商売で成功して行き、商売敵でもある白人の麻薬組織を黒人結社(部屋にパンサー系の写真が貼ってある)と組んで壊滅させる。
結局白人を倒してスッキリ、って映画になっているのが何だかなー。因みににこの2本共、敵が倒れた死に顔を確認して間髪入れずエンドマークが出る。

おいろけコミック・不思議な仲間

おいろけコミック・不思議な仲間(1970/児玉進)銀座シネパトス10/15
プレイボーイのカーレーサー(夏木陽介)が女のトラブルでチームから解雇されてしまう。寮も追い出され、大学の後輩の銀行員(林与一)のマンションに転がり込む。一見気弱そうな林もなかなかの曲者で、母親が亡くなったばかりで淋しかったからと言って婚約者を7人も作ってしまい、にっちもさっちも行かない状態。呆れ返る夏木だが、その1人がレースをスポンサードしている大会社の社長令嬢(夏純子)と聞いて態度が豹変。お前はどんな事をしてでも彼女と結婚し、俺をレースに復帰させてくれ、その代わり残りの女達は俺が請け合おう、と片っ端から女達をモノにしてしまう。渇く間も無い日々を過ごしている内に、夏木の妹(ジュディ・オング)が訪ねて来る。ブラザー・コンプレックス気味の妹に自分の本性を夏木がトコトン隠そうとする所からギャグを作って行くのだが、この辺の設定は同時期のアメリカのスクリューボール・コメディーと比べて30年は遅れているような気がする。
などと落胆したわけではなく、焼けた肌に髭のクラーク・ゲーブル風にオネエ言葉を取り混ぜて如才無く動き回る夏木と、眠そうな目で膨れっ面を見せつつ夏木に従うお坊ちゃま風を演じる林のコンビネーションは悪くないし、林のマンションに外部から様々なアクションを仕掛ける事で舞台を作って行く進行も手堅く、何より藩文雀や松岡きっこ等の綺麗処が一堂に会するクライマックスはやはり盛り上がる。夏純子は6カットぐらい、トータル15秒も出演していないのだけど、日曜の朝にオープンカーを乗り付けてマンションの前の通りから林の名を呼ぶ、と言う役柄の切り取り方にセンスの良さを感じる。